毒葬の家
少年は、誰も足を踏み入れない山に入っていく少女を見つけた。
少女――凪子は、山奥の美しい庭がある家 に住んでいて、病弱なため普段は家から一歩も出られない。 少年は凪子に一目惚れし、家に度々訪れる。 |
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しかし凪子の兄達の様子がおかしい。
凪子に触れてはならないと脅したり、こそこそと見張っ ていたり、家の二階に行ってはならないと言ったり……。 鏡を嫌ったり、「なぎ」と愛称で呼ぶと怒る 凪子の態度もどこか不審だ。 一度も姿を見せない凪子の両親の謎は、たまたま出会っ た男にきいた話でとけた。 凪子の母は失踪し、男の恩師であり植物学者だった父親 は毒草を誤って食べ て死んだというのだ。 少年は、植物学者なのに毒草を誤って食べたという話に疑問を持つ。 |
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ある日少年は、凪子の父親の知り合いの男が凪子に無理矢理キスするところを目
撃してしまう。 その瞬間、男はいきなり泡をふき、死んでしまう! 兄 達は主人公に口止めし、死体をうまく処理する。 後日少年は、驚愕の事実を聞かされる。 母・凪は凪子を産んだ直後に愛人とどこかに消え、愛す る妻を失った父親は、凪子と名付けた娘だけは他の男 に取ら れないように、毒草を与えて育て、全身が猛毒の〈毒姫〉にしてしまったのだ。 男がキスだけで死んだのは、凪子の毒のせいだった。 |
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兄達は、凪子の秘密が外にばれないように凪子を家に閉じ込め監視し、普通の体質に戻す方法を探していた。
凪子は毒草を摂取しなければ駄目な体になっていた。 凪子は父親から歪んだ愛情しか与えられなかった。 ならば父親に似た顔の少年に、父の代わりとして愛され たいと願った。 最初は父の代わりとしか見ていなかった少年のことを、 凪子は本気で好きになってしまっていた。 毒姫の近くにいたり触れたりするだけで、その人も 毒におかされてしまう。 凪子は、少年を愛するが故にきっぱり別れることを決意 する。 |
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だが少年の凪子への想いは変わらない。 すると凪子は自分が犯した本当の罪を暴露する。 実は、母親の浮気に怒った父親が母親を殺し、遺体を庭に埋めて「妻は 失踪した」と偽った。 父親は妻にそっくりな顔をした凪子を「凪」として扱い、凪子の個性を出すことを禁じ、トリカブトの毒入りミルクを飲ませ、病弱だからと理由をつけて、人形 のように家に閉じこめていた。 そのため凪子は全ての原因を作った母親を呪い、鏡を嫌い、名前を略して(母の名で)呼ばれるのを嫌がるようになった。 やがて凪 子はそのような暮らしが嫌になり、父親が山で採った実で作った果実酒に毒の 実を混ぜ、それを飲ませ事故に見せかけて殺したのだ。 |
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それを知っても、少年は凪子を受け入れた。 全身猛毒の毒姫に触れるだけでも、体は毒に染まっていく。 しかしそれこそが、二人の幸せへの第一歩だった。 |
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山中の古い木造の家に閉じこめられた、美しい黒髪の毒姫。 母の屍が埋まった庭に生えた毒草を、彼女は食べる。 そんな狂った物語。 |